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Deep KISS 第75号「規制続々」

皆さんご存知の通り、東京証券取引所が,
MSCB(=Moving Strike Convertible Bond
     =転換価格下方(または上方)修正条項付き転換社債
     =米金融界口語でDeath Spiral Convertible)
の規制をすることになりました。
また、TOBに関する規制も始まるようです。

結論から書きましょう・・・
「こんなもんを規制しなければならないほど、日本の資本市場は未熟である」
です。
情けない限りです。

それが既存株主を毀損することを・・・
1、経営者が不勉強で知らないからなのか
2、知っていながら、
  「俺自身の自社株なんてどうせ売れないから」と思うから平気なのか、
3、「どうせ一般株主は馬鹿だからわからないだろう」と思うからなのか、
4、引き受け証券会社に「MSCBジャないですよMPOって言うんですよ」
  なぁ~んて、そそのかされた結果なのか(笑)
 (↑・・・野村証券についても「名称変えれば大丈夫さ」なんて稚拙ですね)
5、報告書には、「新株予約権付き社債」という「正式名称」を使うからバレないと思うからなのか(笑)
6、「株主資本コスト」なんて無いも同然と思う化石のような経営者だからなのか

(転換価格下方修正のMSCB発行によって、
   最も儲かるのは、引き受け証券会社です。
      MSCBは、企業にとっての「サラ金」であり、麻薬です。)

以上のように経営者がどういう判断でMSCBを発行するのか知りませんが、
その根本には、
「自らが毀損されることをわかっていない株主」、
(いや、上場企業をただのパチンコ台だと思っているギャンブラーばかり)
が、MSCBの発行を容認させたのでしょう。

僕は、ライブドアのMSCB発行以降、しつこく(下方修正の)MSCBの仕組みと、その弊害について書いてきました。
たとえば、こちらをご覧ください。
「CEOが不勉強で知らなかった」では済まされませんが、
「知っていてわざとやった」でないことを、むしろ願う限りです。

「適法なら何でもあり」
この考え方の連中がのさばる限り、
規制や法律を「どんどん作り続ける」必要が生じてしまいます。
立法も、それを管理監督するにも、社会的なコストが発生します。
そして、いつの間にか「窮屈な世の中」になっているでしょう。
全く持って、非合理的な対処です。

何度も書いていることですが、
「闇金融」を法によって封じれば、「振り込め詐欺」が横行するだけです。
根本的な対策は、
「騙そうとする連中を捕まえる」ことばかりではなく、
「騙されない人創る教育」を忘れてはなりません。

堀江、村上、その他「なんちゃってIT企業」の経営者の行い、
そして、彼らのインチキを助長させた「なんちゃって投資家」の行いは、
結果として、「規制強化」につながったことを、彼らも認識すべきです。

こいつらに、
「人は普段、人を殺さないよね」と尋ねれば、
きっと、
「だって違法だから」とか答えるんだろうよ。

教育が伴わない「規制緩和」なんてのは、結局元に戻るだけなのです。

今、ピッチには、サッカーのルールさえ知らない人が多すぎます。
彼ら自身が結果的に損をすることになると言うのに・・・

真っ当な経済環境は、その利害関係者すべてで創り上げるものです。
従業員、取引先、顧客、債権者、株主、そして経営者・・・
すべての利害関係者が真っ当である企業は、どの立場で関わっても損をしません。
どれか一つの利害関係者が「へんてこりん」なら、企業全体が価値破壊を起こしてしまうのです。

特に「一時的な大株主の我がまま」は、多くの場合、企業価値を破壊するだけですし、一部の利害関係者の便益を忘れる経営者は、経営者ではありません。

2006年4月24日 板倉雄一郎





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