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Deep KISS 第36号「意味の無い絶対値の比較(株価)」

このところの株高傾向を受けて。また、新年を迎えたとあって。

「2006年の相場はどうなる?」のような内容が、メディアで多く取り上げられています。

様々な意見がありますが、中でも「最高にトンチンカンな意見」は、以下のような意見です。

「日経平均は、バブルの頃に比べ40%ほどにしか回復していないから、まだまだいける!」 こんな意見を見聞きしたら、その発言をされている方の知識や情報を疑っていただいて、まず間違いありません。

価格の絶対値を、時間経過を含む、様々な変化を無視して比べるなんて、何の意味もないことだと断言します。

バブル当時(1980年代後半)と、現在と当時では・・・

 1、インデックスに組み入れられる企業が違う。
 2、貨幣価値が違う。
 3、そもそも個別企業の業績見通しが違う。
 4、為替レートが違う。
 5、企業や個人の資本調達コストが当時と違う。
 6、同時に企業の資本レバレッジが全然違う。
 7、リスクフリーレートが違う。
 8、インフレ見通しが違う。

(上記の「違いリスト」には、本質的なダブりがあることをお断りしておきます。)

つまり「経済環境」が全然違うわけです。

以上をあえて無視しているのか、何なのか、バブル当時の「インデックスに組み込まれていた企業群の株価平均の絶対値」と、現在の「絶対値」を比較して一体何が分かると言うのでしょうか?

「日経平均がどうでもよい」と主張しているのではないです。

日経平均は、指標に組み込まれる「個別企業の業績見通しの積み上げ結果」であることを、正しく認識すべきですよね。

但し、日経平均のようなマクロの指数は、個別企業の業績にも、回りまわって「ループして」影響を与えるわけですから、無視すべき指標でもありません。(ただ、日経平均より、TOPIXの方が、あらゆる意味でアテにはなりますが)っていうか・・・「そもそも、バブル(=価値に対して価格が高く乖離したとき)を基準にするようでは、御話しにならない」ですよね。(笑)

「1万○千円まで行きます!」と言う人は、おそらく「占い師」なのでしょう。

現在の状況でも、「まだまだ全然割安」な企業もあれば、「もう割高で全然手が出ない」という企業もあるわけです。

もう少し詳しく書くと・・・
企業価値(=事業価値+非事業用資産)に比べ、どう考えてもありえないぐらい高い企業時価(=株式時価総額+有利子負債)の企業も、既にいくつもありますし、その逆もいくつもあります。

現在のように投資家の「高い資本レバレッジ(=個人の場合には信用買い残高)」によって支えられる株価は、いずれ調整されます。

その時、「割高の株価」は、いち早く調整されます。
その時、「割安の株価」は、さほど下がりません。
その時、「買いのチャンス」なのです。

このように玉石混交の中で、過去と現在のインデックスを比較するなんて、クリープを入れないコーヒーよりひどい話です。
(すいません、比喩が古すぎました・・・僕はブラック党です)

更に・・・
これまた良くある、「日米企業の時価総額の差」なることもメディアで良く使われます。

企業価値(=株主価値+債権者価値=事業価値+非事業用資産)の比較なら意味があります。

また、それが面倒でも・・・
企業時価(=株式時価総額+有利子負債)の比較なら意味があります。

しかし、そもそも資本レバレッジの違う企業の、時価総額(=企業価値の内、株主価値に担保された部分だけ)を比較したところで、意味がありません。

食べ物でも、情報でも、知識でも、「体に入れるもの」は、しっかり吟味してから入れないと、後で悔やむことになります。

2006年1月6日 板倉雄一郎





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