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Deep KISS 第72号「日本経済の行方」

「政府財政が危機的状況にある」

確かに、政府という「会計単位」だけ見れば、借金だらけです。
しかしこの債務は、「対外債務=諸外国からの借金」ではなく、
私たち日本人が、私たち日本人の政府に金を貸しているに過ぎません。
本質的には、内部循環です。
私たちの政府が、「債券=国債」を発行し、
それを私たちが、直接(=個人向け国債)または、
間接(=預金している銀行や証券会社を通じて)的に、
国債を購入(=金を貸す)しているに過ぎません。
この過程で得られたキャッシュを原資に、
公共事業や医療サービスなどが行われているというわけです。

よって、「ありもしないキャッシュ」を創り上げているのは事実ですから、
本質的には「円」の希薄化が進行していると言えます。
よって、いずれインフレを起こすことは免れないと思いますが、
一方でデフォルトを起こすことは考えられません。

つまり、
「政府財政が大変だぁ~!」という意見は、
財務のテクニカルな要因についてのみ考察した場合の危機であって、
本質的には、以下の問題に比べれば、「大した問題ではない」のです。
また、
政府のバランスシート上の資産と負債をぶつけることによる「オフバランス」は、
テクニカルな「政府財政の見た目」を改善するに過ぎず、
全く持って本質的な解決にはならないことも付け加えておきます。
(ただし、政府保有より民間保有の方が効率的に価値を生み出すような土地などの場合は、オフバランスを実施することにより価値が増大しますから、この限りではありませんし、さらに、「税の無駄遣い」を無くすことが重要なのは言うまでもありません。)

もっと大きな問題を考えて見ましょう・・・

私たち日本は、現在の豊かさや繁栄(=ありもしないキャッシュの分を相殺した上でも、諸外国に比べ少なくとも経済的には十分に豊かです。)を継続するために、様々な資源を諸外国に依存しています。
たとえば、食料・・・自給率は極めて低い。
ちなみに、ドイツやフランスの食料自給率は100%前後です。
たとえば、エネルギー資源・・・石油もウランも鉱石も何もかも海外に依存しています。
この国が自給できている資源は、
(詳しく調べたわけではありませんが)「真水」ぐらいではないでしょうか。

諸外国に資源を依存している以上、
彼らから資源を調達「し続けなければ」、私たちの暮らしは継続できません。
資源の調達方法は、二つ。
一つは、諸外国が「金を払ってでも欲しがる価値」を提供し、
その対価として彼らの資源を頂く。
(通貨とは、単にこの価値交換の媒体に過ぎません。)
もう一つは、戦争などによって「奪い取ってくる」です。

もちろん後者を現実的に考えている日本人はほとんど居ないでしょう。
現実的に取れる手段は、もちろん前者です。

私たちの日本には、優秀で勤勉な労働力があり、
その労働資源を効率よく商品のカタチに創り上げ、
その商品を諸外国に提供するシステムが構築されています。
同時に、これまでの私たちの先輩の努力の結果、
諸外国の「日本製」に対する信頼が揺るぎ無いのは周知の事実です。
何度も書いていることですが、
以上が今の私たちが(少なくとも経済的には)豊かになれた本質的な原因です。

さて、前置きが長くなりましたが、以上の「事実」を鑑みた上で・・・

「1年で○億円儲かる!」とか、
「デイトレードであなたも大儲け!」とか、
「1週間で株式投資の達人になれる!」とか、
そんな、そもそもインチキ本に群がる人たちばかりになってしまったら、
上記の「日本の世界における価値」は、どうなってしまうでしょうか?
言うまでもありませんよね。

御百姓さんが、高価な土地と自然の恵みを授かり、
その上で汗水流して働いた「食物という価値」を否定する人は居ないでしょう。
彼らは、「1年で○億円!」なんて稼げません。
一方、「1年で○億円!」を稼ぐと豪語する方々は、
この御百姓さんの「何十倍!」もの価値を社会に提供しているでしょうか?

本質的な価値提供の伴わない稼ぎは、
他の誰かの損失の上に成り立っているに過ぎません。
インチキ書籍も、インチキ大衆メディアも、
「儲かった象徴的な人」は取り上げますが、
その影で「うすーく損した大多数」を取り上げようとしません。
もし本当に、提供した価値の何十倍、何百倍も儲かる可能性があるのなら、
同時に儲けと同じ程度の損失を出すリスクが伴うのです。
これ、僕に言わせれば「博打」に過ぎません。
博打で確実に儲かるのは、その胴元だけです。

皆さんにお伝えしたいことは、
人生の大切な時間を、くだらない「ババ抜きゲーム」に浪費して欲しくない。
ということです。
そんな行為は、
自分自身の本来持っている能力を衰退させ、
(脳は使わなければ老化します)
多くの場合、自分自身の経済的損失も伴い、
同時にこの国の豊かさの「継続性」が失われてしまうのです。

何度もしつこく書いている内容ですが、何度もしつこく書かせてください。

社会に対する価値提供を真剣に「楽しみましょう」。
その見返りは、必ず私たちにもたらされます。
私たちは価値を創造しましょう。
その価値に他人がつけた価格が「価値の評価」と受け止めましょう。
社会から頂いた価格に満足できなければ、
提供する価値が少ないか、
提供するグループ(=就労先の企業など)の効率が悪いのでしょう。
何が問題かを突き止め、
ご自身が最も効率よく社会に対する価値を提供できる環境を、
ご自身の手で作り上げましょう。

私たち自身と、私たちの暮らす社会が豊かで「あり続ける」ために。

「働かざるもの食うべからず」

この一言に尽きます。

(以上、詳しくはDVD第1弾「お金と経済の本質」にて)

2006年4月13日 板倉雄一郎





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