「ある経済系番組」にて、エコノミストだか、アナリストだかの方が、発言していました。
「金利上昇によって、住宅ローンの負担が増えると言うが、一方で銀行預金金利も上昇する。だから、経済全体としては、悪いことばかりではない。」
(↑以上、要点を書いているだけで発言の一語一句は違うと思います)
確かに、この発言のどの部分も間違ってはいません。
しかし、「何の意味も無い発言」だと僕は思いました。
そもそも、「経済全体」などという人間は、この世に存在しません。個々の人間、個々の企業の活動の結果として「経済全体」の現象が起こるわけであって、経済全体の「総和」が、個々の人間や個々の会計単位の良し悪しを表すわけでは無いということを忘れてはなりません。
確かに、経済全体の動向は、個々の人間や会計単位に影響を及ぼしますし、個々と全体は、常に影響しあっています。しかし、この視点であっても最終的には「個々は個々の将来に最も興味がある」わけです。
さて、金利が上昇するとどうなるか・・・
おばかさん・・・
1、固定利率の国債で資産運用している人。
具体的には・・・
郵便局、個人向け国債保有者、国債を保有する公的機関など。
2、変動利率の有利子負債によって資本レバレッジをかけている人。
具体的には・・・
変動利率の住宅ローンを組んでいる人。
(自己資本に対して相当に大きい)変動利率の長期借入がある企業。
(↑ただし金利上昇に伴い、株主資本コストも底上げされます)
3、長期の「定額収入」に依存する人。
具体的には・・・
年金生活者(←おばかさんではなく、政策に翻弄される犠牲者)
傷害保険などの「無事故ボーナス」を楽しみにしている人(笑)
4、言うまでもなく、「借金漬け」の人(笑)
などです。
おりこうさん・・・
1、変動金利の投資対象で資産運用をしている人。
具体的には・・・
変動利付国債など変動金利でお金を他人に貸している人。
2、まるで有利子負債の無い人。
ただし、銀行預金だけが資産という人の場合、運用機会損失による資産の相対的目減りはあります。
そして、サイコーのおりこうさん・・・・
「資本、原材料および人件費などのコストの上昇分を商品価格に転化できる企業」の利害関係者。
具体的には・・・
そのような企業の株主、従業員、取引先、そして、(変動金利での貸付なら)債権者などです。
以上の、おりこうさんおばかさん、すべての「人間」の活動の結果として、「経済全体」の動向が現れるわけです。
さて、この国には、「おりこうさんおばかさん」どちらの人が多いでしょうか?どちらが多いとしても、金利上昇は、「貧富の差」をさらに拡大します。これまでの「超低金利時代」では、経済的豊かさの違いは、“運用”によって左右されました。しかし、金利上昇に伴い、“調達”の重要度が増します。
将来の貧富の差は、その人の、現時点での収入の多少や、現時点での資産の多少によるのではなく、現時点での「知識のあるなし」によって発生します。
いまこそ、「おりおば」を再読してみましょう。必要な知識は、この本にすべて書いてあります。
景気過熱を放っておけば、もっとひどいことになります。
ですから、「金利調整」は非常に重要です。しかし、小手先の経済政策だけでは、国家としての豊かさは享受できません。大切なことは、経済教育です。「教育なき規制緩和」は、我々の将来に重大な「闇」を作ることになるからです。。
2006年7月11日 板倉雄一郎