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Deep KISS 第56号「灯台下暗し」

人から聞いた話ではありますが・・・

日本人経営者の海外企業視察というプログラムが、いくつかあります。
経営者団体が旅行代理店と組んで主催する経営者向けのツアーってことですね。
その中に、「デルコンピュータの視察」がありました。
今をときめく米ベンチャーの雄マイケルデル率いるデルコンピュータの経営について、実際に本社やアッセンブリーラインを見学し、その経営手腕を学ぶというわけです。

参加費用を負担し、仕事の合間を縫って、わざわざアメリカまで視察に行った先で見たモノは・・・
在庫リスクの徹底管理、
顧客の注文に合わせたサプライチェーンマネージメント、
WEBを使ったマーケティングの極意などなど・・・
「なるほど世界一のPC販売会社になるわけだ!」と、
視察した方々は、偉く驚き、感激するわけです。
で、ある視察者が聞きました。

視察者   「このシステムは独自に開発したのですか?」
デルの人 「No. Our Management ・・・・JUST IN TIME.」
視察者全員呆然(笑)

以上実話だそうです。

ご存知の通り、
トヨタ自動車のマーケティングとサプライチェーンをリンクした「カンバン方式」、
これを英語では、「JUST IN TIME」と表現します。
わざわざアメリカまで行かなくても、新幹線で名古屋まで行けば、それで済んだ話というわけです。

孫正義率いるソフトバンク、
堀江貴文率いるライブドア(の以前の世間の見方)、
その他もろもろの「ITベンチャーの成功例(?)」に憧れを持つのがいけないとは申しません。
しかし、
「米国の真似っこ」や、
「米国と日本の技術などの水位差を利用したビジネス」などに憧れを持つ前に、
それらより遥かに実績があり、遥かに全世界に対する価値を提供し続け、
その始まりはわずか数十年前の「ベンチャー」だった現大企業が、
この国にはたくさんあることを思い出してください。

トヨタ自動車だけではありません。
本田宗一郎と藤沢武夫による「本田技研工業」、
井深大と盛田昭夫による「ソニー(は最近もろもろ問題ありますが)」、
世界シェアNo1になったVHSを開発した「日本ビクター」と、
それを世界に広めた「松下電器産業」、などなど・・・・
家電や自動車以外にもたくさんの日本企業が世界を舞台に活躍しています。
彼らも、わずか数十年前は、みなベンチャーだったことを思い出してください。

ちなみに、
Microsoft社ビルゲイツが最も尊敬している企業は「トヨタ自動車」だそうですし、
バフェットの経営によるバークシャーハサウェイ社のコングロマリットは、
グループ内企業間の取引が少ない点を除けば「ケイレツ」に似ています。

結局アメリカは、
優れた能力を持つ日本人による事業システムを真似し、
それを真似できなかった古い企業は、崩壊し、
そして、今度は、日本の優れた企業を手に入れるべく、
金融のグローバリズムを迫り、
日本人の多くが、日本人の経済的な「タカラ」に気がつく前に、
それらを買収しようとしていると、僕には、映ります。

ベンチャーを志す若者が、目標にすべきは、
ソフトバンクや、ライブドアではなく、
以上のような我々の気質を効率よく事業化した日本的ベンチャーであるべきですし、投資対象は、以上のような日本のタカラであるべきです。


シリコンバレーは有名ですよね。
その名を拝借して、その昔「ビットバレー」なる集団が渋谷に出来ました。
(もしかしたら、その起源は僕自身にあるとも思いますが)
しかしシリコンバレーでは、Yahoo!以外は、ほとんど「技術開発」の企業です。
Apple Computer , Sun Microsystems , Netscape Communications・・・
(ちなみに、SUNは、Stanford University Networkの略だったりします.)
ビットバレーは、その表層を真似ただけの「WEB開発ベンチャー」ばかりでした。
そんなもん、あっという間に崩壊して当然です。

現在でも、いわゆる「ITベンチャー」と呼ばれる企業のビジネスモデルは、
「単なるハードディスクと通信メディアの時間貸し」であったり、
「マーケティングといいつつ、単なる顧客データベースの管理会社」であったり、
「IT企業と名乗るけれど、単なる買収ファンド」であったり、
「ケータイコンテンツというも、実はダイヤルQ2のケータイ版」であったり、
そんな企業ばっかりだと、少なくとも僕は思います。
つまり、化粧が上手だが中身の無い女性と同じです。
そんな女性と過ごした翌朝は、自分が情けなくなったりするものです(笑)
もちろん、そうではないベンチャーもたくさんあります。
しかし、そうではない真っ当なベンチャーは、あまり「目立ちません」。
そんな目立たないところに、10年後20年後に日の目を見る企業があるのです。

ベンチャーの皆さん、ベンチャーを志す皆さん、もっと視野を大きく、本当に見習うべき企業を探して見ましょう。
灯台下暗し、そして、ウサギより亀。

「40歳で引退だ!」などと思っていても、事業を成功させることが出来る人間は、引退なんて絶対に出来ません。
事業を成功させれば、もっと事業をやりたくなるのです。
結局、仕事が出来る人間は、一生仕事を続けるのです。
だから、じっくり、確実に、「本物」を創りあげてゆけばよいのです。
僕のように慌てることによって、本来育つ事業を、結果的にぶち壊してしまわぬよう、着実に進めてみましょう。
人生の時間は、意外と長いのです。
そして「人生の暇つぶし」として、「仕事」ほど楽しいモノは他に無いのです。

以上、なんだか「地上の星」って感じのエッセイでした(笑)

2006年2月9日 板倉雄一郎

PS:
昨日は、「読売新聞」の取材を受けました。
この方も27歳と若かったのですが、もろもろ良くお分かりの方でした。
当事務所のセミナーも、このところ30歳前後の御若い方が多くなりました。
この国も、何かに気がつき始めた、と、そんな感じがいたします。

PS^2:
ライブドア関連記事を拝見していると、香港ルートが取り上げられています。
あんなもの、香港の適当な会計会社に行けば、カンタンに会社作れます。
後に、「会社セット」なる書類が、届くんです。
年間の維持費が多少かかるだけ。つまり「書類=法人」なのです。
香港外企業が、香港にオフィスを持ったり従業員を雇ったりする例はほとんどありません。
オフィスが無いことを大衆メディアはこぞって取材しますが、そんなの当たり前です。

僕も昔、知人に薦められてつくったことがあります。
税率がおよそ17%と低いため、節税というか脱税目的のために創るわけです。
(僕は、脱税したことありませんし、今後もするつもりは全くありません。)
香港は、人口およそ600万に対して、法人の数が600万というところです。
それ自体を追求しても、なんにもなりません。





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