板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第95号「連結会計」

(このエッセイは、過去に「コングロマリットディスカウント」という題で一度アップし、その後、焦点がボケた内容であったため削除した内容を、再度精査してアップし直した内容となっています)

とある企業A社と、A社に発行済株式数の51%を保有されるB社があった場合、B社はA社の「連結会計」の対象となります。

連結会計では、相互の取引や、相互の資本の持ち合いなどが控除されます。

たとえば・・・。

B社がA社に対し、商品を販売した売上による利益は、B社単独で見れば、「実現された利益」となりますが、B社からA社に納入されたB社の商品が、A社内で在庫となり、「いまだ販売されていない」場合、両社連結では「未実現利益」として控除されます。

つまり、お父さんと息子の取引は、「家計全体」としては、利益として見なすことが出来ないというわけです。まあ、当たり前ですよね。

企業同士が、資本関係を持ち「我々はグループ企業だ」と、どこから見ても認識できる場合は、しっかり連結会計を行ってくれるので、問題はありません。

しかし、企業同士の資本関係も無いのに、「自分勝手グループ企業」を作ってしまう人がいます。

それは、節操なく「会計上の利益」を頼りに、複数の企業に投資する個人投資家です。

上記のA社とB社は、資本関係があることによって親子になっています。しかし、互いに取引のあるA社とB社に資本関係がなければ、(または、出資比率が低ければ)連結会計の対象外となります。

しかし、互いに取引のあるA社とB社の両方の株式を、同時に保有する個人投資家にとっては、グループ企業ということになってしまいます。

よって、会計上の利益を頼りにした複数企業への投資は、知らず知らずのうちに、グループ企業を創り上げ、結果として本人が認識するほどの価値を得られないという結果になってしまうわけです。

インチキ投資指標のPERが使い物にならない、と僕は何度も主張していますが、以上はその原因の一つです。(でも、PERが使えないのは、資本レバレッジが見えないという点のほうが大きいですけど)

また、「日米のPERの違い」などが取り上げられることがありますが、これもその国の企業群の「相互取引の割合」を無視することになるので、意味の無い背比べということになります。

じゃあ、どうすればいいの?

はい、カンタンです。会計上の利益を頼りにした投資活動は、そもそもイケテナイ事を理解することです。なぜなら、会計基準の如何や、在庫のカウント方法などによって、会計上の利益は大きく変動しますし、会計上の利益は、「未回収の金」まで利益に含めてしまう一方で、「減価償却費」などのキャッシュアウトの伴わない費用もカウントするからです。

これらをキャッシュフローベースに変換し、企業価値を算出するディスカウントキャッシュフロー法を頼りにすれば、「自分勝手グループ化」による価値変動を心配しなくて済むわけです。

なぜなら、資本関係があろうがなかろうが、
A社のキャッシュインはキャッシュイン、キャッシュアウトはキャッシュアウト。

B社の場合も同様。

キャッシュは、相手方からアウトしていないのに、こちらのインには絶対にならないからです。

ただし、極めて厳密には、DCF法でも問題はあります。
それは「税を支払う時期」です。言うまでもなく「税の支払い」は、キャッシュアウトですから、DCF法における大切な因数の一つです。一方で、税は、「会計上の利益」を頼りに徴収されます。

お金の時間価値を無視すれば、税を支払う時期が変動するだけですが、(↑つまり何期か連続の税の支払額の総計は変わらないということです)

お金の時間価値を無視することは出来ません。というより、お金の時間価値こそ、資本コストや利回りの本質です。わずかながらではありますが、会計上の利益は、税の支払い時期という点でキャッシュフローに影響を与え、結果として企業価値に影響を与えます。

しかし、微々たる価値変動ですから、キャッシュフローベースの価値算定を行っている限り、あまり気にする必要はありません。

会計上の利益を頼りにした投資は、以上の点以外にも、たくさんの問題があります。投資における価値算定においては、キャッシュフローによって行わなければならない、ということです。

会計上の利益を因数にした「指標」たとえば・・・
ROA、ROE、PER、EPS・・・これらもあまり、アテになりません。
せいぜいスクリーニングの因数として使う程度がよろしいです。

2006年7月18日 板倉雄一郎





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