板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第44号「大人の責任」

先日、某女子大にて「おりこうさん おばかさんのお金の使い方」ベースの講義を行いました。

その女子大とは、偏差値で言えばかなり下の方。生徒は、「ドラゴン桜」とは、縁もゆかりも無い女性たち。講義中は、一部の学生が「ぺちゃくちゃ」。何か質問を出しても、「ぽかぁ~ん」。

 昨日、担当の先生(法律がご専門で、当事務所合宿セミナーの卒業生)から「板倉雄一郎氏講義の感想」というレポートが送られてきた。

全部で100ページ以上。正直、出来すぎていて驚いた。

中には、他人のレポートを書き写しただけのものもあった。
中には、トンチンカンな理解のレポートもあった。
中には、僕のWEBの僕の文章を拾い、つなぎ合わせただけのレポートもあった。

しかし、彼女たちのレポートの大部分は・・・

「お金の時間価値(=DCF法の基礎)」「調達と運用による経済価値創造(=ROIC-WACC=Spread)」「経済取引の基本(=誰の価値と、誰の価格の交換であるか)」「お金の流れ方(=タダなどこの世に無い・・・ポイントシステムなど)」という、「おりおば」の基本エッセンスを(レポートを読む限り)しっかり理解している内容だと感じた。

しかも、ほとんどのレポートは、1ページにフォーマットされた「レポート提出用紙」では文章が収まらず、その紙の「裏側」まで使って、感想を書いてくれている。

「こんなもん適当に字数を埋めればいい」といった姿勢でレポートを書いたのではないことが文面から伝わってくる。

現在の教育システムの中での「偏差値」なんて、一体どんな意味があるのか?彼女たちのレポートを読み「多くの事を学ばせて頂いた」と言うのが今の僕の率直な感想だ。

彼女たちのレポートの中で特筆すべきことを書いてみたいと思う。それは、彼女たちが「大人と表現する人間の無責任さ」についてである。

ある学生のレポートに、以下のような内容があった・・・

<レポートの一部抜粋>
「勉強になることも沢山あったが、疑問に感じることも沢山あった。住宅ローンなどで、お金を借りるとき、『変動金利より固定金利のほうが、長い目で見れば得』だと、板倉先生は言っていたが、私の周りの大人にこの話をしてみたところ、『今、固定で払っていたら、今の生活が成り立たなくなる』と言っていた。

板倉さんは「お金を貯めるためにすること」と考えているんだと思いますが、今の生活もモゾモゾな状態の私なんかにしたら、(板倉さんの考えは)「お金持ちだから出来ること」のように思えてしまう。」

この文章には、誤解や本質的理解の欠如が、いくつか見受けられる。他の学生の理解に比べ、かなり見劣りする内容だ。

ちなみに「金持ちになろう!」なんて、僕が最も嫌う「拝金主義」を伝えた覚えはないし「お金」は、自らが社会に対して提供した価値によって受け取るものであって、天から降ってくるものではないことも、しつこく講義したつもりです。

その証拠に、他の学生のレポートは的を射ている内容だった。(ところで、「モゾモゾ」って、新しい言葉なの?意味わからん。) が、そんなレポートに関する文句は、どうでもよい。

それこそ、僕の「教え方が悪い」のだと思う。

特筆すべきことは、上記文章の中に登場する「大人」だ。
(「大人」という表現自体、大学生にしては子供じみているが、彼女の言う「大人」という表現を以下で使わせていただきます。)

この『大人』の問題は、「自分の生活水準を、自分の収入に合わせていない」ということに起因している。「わずか数パーセント」の足元の金利支払の違いが、変動金利を選んだ理由と言うほど「生活がキツキツ」なのであれば、そもそもローンを組んで「家」を買うような経済的状態だとは言えないのだろう。

というより、「間違った知識」と「間違った判断」を繰り返しているからこそ、いつまで経っても「キツキツ」から抜け出せないのだ。きっと、インチキ金融機関に「賃貸での家賃支払より、ローンの支払額の方が少ないでしょ!」なんて、騙されたのだろう。

この大人は、自分が「支払った(又は支払う)価格より、得ている価値が少ない取引」をしでかしていることに全く気がついていない。

恐らく「数年後に痛い思いをするまで」気がつくことが出来ないだろうし、もし気がついても、自己正当化のために正しい知識を否定するのだろう、きっと。

しかし、こんな「大人」がどうなろうと、知ったことではない。

僕が危惧するのは・・・・

自分の知識と判断の間違いを認めたがらない「大人」が、自分自身を(彼女たちの前で)正当化するために、せっかく、本当のことを学習した学生に、間違ったことを伝え、彼女たちをミスリードしてしまうこと。彼女たちのような現在の学生が、後のこの国を動かす一員になるというのに。

僕は、この「大人」を、先ほど死刑にした。(笑・・・もちろん頭の中で)

学生は大丈夫なのだと思う。しっかりした知識を持つ人間が、しっかりした「教育哲学」に基づいて学生を教育することができれば、大丈夫なのだと思う。

問題は「知ってるつもり」で「エエかっこしい」の大人なのだ。多くの場合、教える側は残念なことに以上のような「大人」なのだ。

2006年1月20日 板倉雄一郎

PS:
最も危惧することは、「親が、子供に対する面子(メンツ)のために、自分の子供にさえ、嘘を教えてしまうことだ。

PS^2:
「おりおば」には、以下のようなフレーズがある。

「超低金利時代には、お金を貸すなら変動金利、お金を借りるなら固定金利がお得」

 この文章の場合、前置きの「超低金利時代には」という表現が非常に重要です。

もし、この表現部分がなかったら、無条件に、「貸すなら変動、借りるなら固定」と理解されてしまうからです。

金利が限りなく上昇し「この先金利が下がるだろう」というときには、全く逆が「おりこうさん」になるのですから。

このような部分的な表現に神経を使った結果、執筆が遅れたのですから。(幸い、ファイナンスや経済に詳しい方々には、僕の「一行に込めた思い」が伝わっています。)

しかし、いくら著者が神経を使って書いたとしても、本文に書いたような「大人」は、「Aの場合はB」という暗記をしてしまうのだろう。いつから日本人は、日本語の読解が出来なくなってしまったのだろうか?

「英語が話せればカッコ良い!」かもしれないが、「日本語をしっかり使えなければ、ものすんごくカッコ悪い!」ことに気がつかないのか。

PS^3:
当事務所のパートナー橋口寛のエッセイを是非読んで頂きたい。僕の文章より、遥かに簡素に、遥かに本質を伝えている。
(ずるいなぁ・・・タイピング数が少なくて(笑))

特に、「ホリエモンのファン」には読んで頂きたい。

PS^4:
当事務所の合宿セミナー卒業生のブログです。
もう一つ、合宿セミナー卒業生のブログです。

セミナーの効果の程がお分かり頂けると思います。彼らの職業は、ソフトウェア開発だったり、ゴム屋だったりで、決して金融マンではありません。

PS^5:
とある会社の「退場の日」は、思ったより早く来そうだ。





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