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Deep KISS 第4号「価値と価格と価値創造と時間経過」

「株式投資は博打」とばかりに、ろくに勉強もせず、大切な資金を遊んでしまう個人博打家の株式市場への参入から、ある程度時間が経ち、ようやく「チャート分析」では埒が明かないことに気づいた方々が、「価値と価格」の違いに目覚め始めたと感じています。

(チャート分析などのテクニカル分析では、ある日突然インチキ経営者がMSCBを発行した場合の株価暴落や、業績変動による企業価値変動、さらには、企業価値創造メカニズムによる価値変動を把握することは困難(いや不可能)ですし、価格変動要素より価値変動による影響のほうが、少なくとも長期では遥かに株価を左右します。)

しかし、まだまだ新規に株式市場に参入する方もこれから増加するでしょうから、簡単に「次、言ってみよぉ!」とはならないわけですが、このWEBの読者は、次に行って見ましょうよ。

と言うことで、過去にKISSで記述したこととかなり重なりますが、とても重要なことなので、しつこく書いてみますね。

投資家から観た企業価値」を図る手法の中で、最も現実的で、最も合理的な手法は、「当該企業が生み出すであろう投資家に帰属するキャッシュフローを、投資家のリスク認識を数値化した係数によって、現在価値に割り引いた総和」です。
(KISSや、DeepKISSを何度読んでも理解が腹の底に落ちない場合は、是非セミナーにいらしてくださいね。)

しかし、この価値算定手法で割り出すことが出来るのは、あくまで、
「今日現在の企業価値」
に過ぎません。

もし、
当該企業が、長期に渡って価値創造を行うことが見込める場合、
「時間経過」と共に、企業価値は増大します。
これとは逆に、
当該企業が、長期に渡って価値破壊を行うことが見込める場合、
「時間経過」と共に、企業価値は減少します。
どちらの場合も、企業価値変動の影響を受けるのは、「株主価値」であって、少なくとも長期では、「株主価値≒時価総額」です。
(当たり前ですが、「業績が悪くなったから借金を無かったことにしてくれ」とは言えないわけですから、しわ寄せは株主価値に来るのです。)

つまり仮に現時点で、
「価値に対して相当に安い株価」が提示されていて、
一見「価値と価格の裁定余地がある」と見えても、
価値破壊を継続的に行うであろう企業の場合、
裁定に時間がかかればかかるほど、裁定幅は小さくなり、
結果として投資家の利回りは減少します。
しかし、
価値創造を継続的に行うであろう企業の場合、
裁定に時間がかかったとしても、
時間経過と共に企業価値が増加するわけですから、
やきもきせず保有し続けられると言うわけです。

ちなみに、価値創造(または破壊)とは、
当該企業の資本調達コストと事業による投下資本利益率の関係によります。
「(新規投資分の)投下資本利益率>加重平均資本コスト」の基で、再投資を行えば、企業価値は創造されます。
また逆に、
「(新規投資分の)投下資本利益率<加重平均資本コスト」の基では、再投資をすればするほど、企業価値は破壊されます。
(当事務所のセミナー卒業生なら、セミナー4コマ目の例の「200年シート」での検証で完璧な理解が出来増すよね)

以上から、「価値と価格の裁定余地」をねらい目に投資を実施し、その後「価値と価格が均衡した時点」での利益確定を否定はしませんが、もし当該企業が、長期に渡って価値創造を効率的に行うことが予測されれば、この時点での利益確定は、さほど合理的ではないのです。
なぜなら、そのまま保有し続けるだけで、勝手に企業が価値創造を行い、しいては株主価値を増大させてくれるからです。

初心者向けの「価値算定手法」を伝える書籍などを見る限り、「価値算定によって、価値と価格の裁定を狙おう!」的な内容が増えてきましたが、残念ながら、「その後の価値創造」については、ほとんど語られていないのです。
「静的」な企業価値評価が出回っているだけで、
時間経過を見方にした「動的」な企業価値創造メカニズムについては、あまり表現されていないわけです。

つまり、「継続的に価値創造を行うであろう企業」に投資すれば、超長期での保有によるメリットが得られるというわけです。
「価値と価格の裁定」は、バリュー投資におけるエントリー時点での「おまけ」に過ぎないのです。

さて、「長期で価値創造を行うであろう企業」を見分ける方法ですが・・・
そんなもの、簡単にわかるわけ無いでしょ!(笑)

一通りの企業価値評価手法を身につけたうえで・・・
有価証券報告書を過去何期分か読み漁り、
ビジネスモデルを把握し、
過去の業績分析を行い、
経営者の「言っていることと、やっていることの違い」を見抜き、
商品マーケットの成長具合や、競争優位性を分析し、
株主の属性を見分け・・・
書き出したらきりが無い。
確かにめんどくさい。
しかし、「毎日ディスプレーに向かって、一分一秒の株価に右往左往する」より、遥かにめんどくさくないし、遥かに利回りは良いし、そして、「遥かに世の中の構造を学習できる」のです。

参考エッセイ:
KISS第123号「美人投票」
KISS第96号「バリュー投資」

2005年10月11日 板倉雄一郎





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