板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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パートナーエッセイ 第18回「回転期間分析とは!?」

★板倉の休暇中、当事務所のパートナーによるエッセイをお送りしております★

こんにちは。パートナーの石野雄一です。

私が旧三菱銀行に入行したときの新人研修で、
こんなことを言われたのを今でも覚えています。

「三菱銀行の融資担当者たるもの、まっさきにバランスシートを見ろ!」

二流、三流の融資担当者ほど、損益計算書の売上や利益で、
企業を判断するというのです。

それほどまでに重視されていたバランスシート。
融資担当者はバランスシートのどこを見て、
その企業の良し悪しを判断するというのでしょうか?

前回のエッセイで、債権者が一番重視する財務指標は、
株主資本比率(=自己資本比率)であるといいました。

今回はバランスシートを使った回転期間分析について
お話したいと思います。

財務の安全性を見るのに、売上債権、棚卸資産(=在庫)、
そして支払債務、それぞれの回転期間の分析が重要だからです。

売上債権とは、受取手形や売掛金を指します。
要するに、販売したけれど、現金回収していないものです。

支払債務は、支払手形と買掛金。
これは、材料や商品を仕入れたけれど、
まだ支払いが済んでいないものです。

まずは、売上債権回転期間を求めてみましょう。
売上債権回転期間は、
次のように売上債権を平均月商(1ヶ月あたりの売上)で、
割ることによって求めることができます。

売上債権回転期間は、簡単に言ってしまえば、
モノやサービスを販売してから、
現金を回収するまでの期間を表します。

回収までの期間が増加傾向にあるのは、
ちょっと心配です。

この回転期間が延びるということは、
企業の資金負担が増えるというだけではなく、
債権回収ができないなどの不都合が生じている可能性があるからです。

長くなるケースとしては、次のようなことが考えられます。

1) 販売先の資金繰り悪化に伴う回収条件の悪化
2) 販売先の力が強く、不利な回収条件を強いられている
3) 無理な押し込み販売をしたため、回収条件を延ばさざるを得ない
4) 不良債権が発生している
5) 架空売上(粉飾)を計上している

同じように、棚卸資産(=在庫)を平均月商で割ると、
棚卸資産回転期間(=在庫期間)を求めることができます。
1ヶ月当りの売上原価で割って求めることもあります。

在庫期間が増加するということは、
商品や製品の性能の低下や陳腐化につながる危険があるだけでなく、
金利負担や保管料負担などが生じるなど、好ましくありません。
製造業で、この回転期間が長くなる場合は、

1) 不良在庫が発生している
2) 投機的な在庫の積み増しが行なわれている
3) サプライヤーの力が強いことから、仕入れを押し付けられている
4) 在庫管理が甘い
5) 架空在庫(粉飾)が計上されている
などが考えられます。

いずれのケースも経営上好ましくはないので十分に注意が必要です。

最後に支払債務回転期間です。
支払債務回転期間は、支払債務を平均月商で、
割ると求めることができます。
平均月商の代わりに1ヶ月当りの売上原価で、
割ることもあります。

この支払債務回転期間は、
仕入れから支払いまでの期間のことです。
この回転期間が延びるということは、
資金に余裕ができることです。
支払いまでの期間が延びるのですから、あたりまえです。

では、この期間が長ければ長いほどいいのでしょうか?
実は、そうとも限りません。
次のようなケースが考えられるからです。

1) 資金繰りがつかず、支払いを延ばして高い金利を支払っている
2) 金利をとられないまでも、割高の仕入れを強いられている
3) 力関係で、仕入先あるいは下請け先に無理を強いている

一方、この回転期間が短くなればなったで、
資金負担が大きくなり、収益面で好ましくありません。
短くなる原因としては、

1) 力関係で仕入れ先から無理にサイトを短縮させられた
2) 仕入先、下請け先が弱体で資金援助の方法としてサイトを短縮した

などが考えられます。ただ、次のようなケースはプラス要因です。

3) 仕入れ単価を引き下げる目的で現金や短いサイトの手形で仕入れている

いずれにしても、過去の実績と比較して大きな変動がある場合は、
その原因を調べる必要があります。

なぜ、銀行はこれほどまでに回転期間の増減を気にするのでしょうか?

それは、回転期間の増減が短期の資金繰り、
つまり、企業に必要な運転資金の増減に直接影響するからです。

運転資金とは、企業が仕入れから販売までの営業活動を
円滑に続けていくために必要な資金をいいます。
運転資金の定義はいろいろありますが、
板倉雄一郎事務所では次のように定義しています。

運転資金
=売上債権(売掛金・受取手形)+在庫-支払債務(買掛金・支払手形)

この運転資金は回転期間を使って、
次のように言い換えることができます。

運転資金=月商×(売上債権回転期間+在庫回転期間-支払債務回転期間)
=月商×収支ズレ
※ 売上債権回転期間+在庫回転期間-支払債務回転期間の部分を収支ズレと呼ぶ

この式から、追加の運転資金が必要になるのは、
売上が増加するケースと収支ズレが悪化するケースと
二通りあることがわかるでしょう。

取引先から増加運転資金の借入の申し込みがあった場合、
銀行が、まず気にするのは、どちらのケースによるものかということです。
運転資金の増加の要因が、収支ズレの悪化の場合は、
それこそ、その理由を事細かに取引先にヒヤリングすることになります。

あなたも、企業の回転期間の推移を、
時系列で分析してみてはいかがでしょうか。
あらたな発見があるかも知れませんよ。

2006年8月16日 石野 雄一
ご意見ご感想、お待ちしております)

PS
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