板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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パートナーエッセイ 第7回「見えないものを、見るチカラ」

★板倉の休暇中、当事務所のパートナーによるエッセイをお送りしております★

今回のエッセーを書くにあたって、
「我々が行っている活動とは、突き詰めるとどういうことなのだろうか」
と考えました。

たどり着いた答えは、
「見えないものを、見るチカラ」
を皆で養い、そして広めていきましょうよ、ということに収斂されるのではないか、というものでした。


皆様、はじめまして。板倉雄一郎事務所パートナーの橋口寛と申します。
「“パートナーエッセー”はいつまで続くんだ、おい。いい加減、板倉を出さんか」
と思われていたであろう皆様、おめでとうございます(笑)。
パートナーエッセーは、この私で最後でございます。
明日には、板倉本人が復帰します。もうしばらくお付き合いください。


私は、9年近く某外資系企業に勤務したのちに退職し、パートナーの石野雄一氏同様乳飲み子と妻を連れて米国に私費で留学しました。
東海岸にあるダートマス大学というところのビジネススクールで、主としてアイスホッケーを専攻した素敵な二年間を過ごし、MBAを取得して帰国。
その後、アクセンチュア戦略グループにてコンサルタントとして勤務したのち、現在は「橋口寛事務所」という“そのまんま”な名前の個人事務所を開いて、コンサルティングや企業研修を行っております。

さて、そんな私が板倉さんと初めて会ったのは、2003年7月16日(金)、お台場のホテル日航東京でありました。
しかし、実は私、そのちょうど一週間前の2003年7月9日(金)にも、ホテル日航東京のロビーに座っていました。
なぜ?
そう、私は日程を一週間間違えていたのです。

待ち合わせ時間の20:00を少しまわったあたりで板倉さんの携帯に電話。出ません。
20:30頃に電話。やはり出ません。
21:00頃に電話。やはり出ません。

その頃、板倉さんは名古屋で講演中。
時計がわりに使っていた携帯がバンバン鳴るのを、腹立たしい思いで眺めていたそうです。

一方の私は、
「待ち合わせ日程を忘れるなんて、いい加減な人だなあ(←どっちが)。いや、でも俺が間違えてる可能性もあるし、帰宅してもう一度確認してみよう」
と思いつつ、
「日程を間違えてしまったと思いますので、もう帰ります」
と留守電を残して帰ったのでした。

しかし、板倉さん曰く、私の留守電の声は相当不機嫌な声だったそうです。
表面上の「言葉」はともかく、声のトーンに現れた「心」は、「お前が間違えただろ!ぷんぷん!」というメッセージを発してしまっていたのですね。
(「言葉」は見えるもの、「心」は見えないもの、のメタファーですね)

帰宅した私がメールを確認して、深く恥じ入ったのは言うまでもありません。
いや、焦りました、はい。

一週間後、当初の「予定どおり」お台場で初対面した私は、散々板倉さんに「いじられた」のでした。

その運命の出会い(?)以降、私は板倉雄一郎事務所に関わらせていただくことになりました。
少人数で始まった、ほんの小さな活動でしたが、あれから二年近くの間に少しずつ輪が広がっていきました。
共通する価値観をベースとして、多くの素晴らしい人々にめぐり合える機会をいただきました。本当に感謝しています。

たまに聞かれることですが、板倉雄一郎事務所には、オフィスはありません。Tangible Asset(目に見える資産)は、基本的にありません。究極のIntangible Asset Poweredな組織なのだといえるでしょう。

また、板倉雄一郎事務所には、パートナー相互間の「契約書」のように、目に見えるかたちで関係性を担保するものは、何ひとつ存在しません。
人をつなぎとめる紐帯(ちゅうたい)は、契約書のような目に見えるものではなく、信頼という目に見えないものです。

私は、板倉雄一郎事務所で、パートナーシップという形態での協同活動をしていく中で、「目に見えないもの」が紐帯となった「パートナーシップ」という組織の持つ「強さ」と「しなやかさ」を実感してきました。

私は、それらの体験と思いをベースとして、パートナーシップ・スタイルで働くことをまとめた本を、ここ数ヶ月間執筆しておりました。
その本は、4月中旬にゴマブックスさんより「パートナーシップ・マネジメント」という名前(仮題)で出版される予定です。
この本の中には、板倉雄一郎事務所の事例も登場しますし、巻末には板倉さんと私の対談も納められています。宜しければ是非ご一読いただければ、と思います。

同書の中でも書いていますが、パートナーシップの本質は、「信頼」と「エンパワーメント」です。
つまり、どれだけ相手を信頼できるか、どれだけ相手に任せられるか、ということです。
信頼は、目に見えません。目に見えないからこそ、重要なのです。

コンサルティング業界では、よく「神は細部に宿る」(God in the details.)と言われます。
私は、「神は目に見えぬものに宿る」(God in the invisibles.)のだと思います。


我々が、「実践企業価値評価セミナー」において繰り返し学んでいくことは、
・ 一見無味乾燥な数字から、その企業のビジネスモデルを感じ取るチカラ
・ 経営者の価値観と能力を感じ取るチカラ
・ 外部の競争環境と自社の強みをもとに、将来のキャッシュフローを見通すチカラ
・ 割引率の根幹となるKe(株主資本コスト)として、妥当な数値を感じ・設定するチカラ
といったものです。

指標を計算したり、エクセルの式を回したりするのは、上記チカラを使うためのツールでしかありません。
結局のところ、可視化されていないところに、ものごとの本質は隠れているのだと思います。

目に見える時価総額(価格)ではなく、目に見えない株主価値(価値)を、
目に見えるKd(負債コスト)だけではなく、目に見えないKe(株主資本コスト)を、
目に見える過去のトレンドではなく、目に見えない将来を、
目に見える報酬ではなく、目に見えないやりがいや社会貢献を、
目に見える契約書ではなく、目に見えない信頼を、

しっかりと感じとり、そして見るチカラを身に付けたい。
そんなふうに考えています。

私はそれができているか?
とんでもありません。全然ダメです。
板倉さんを含め、見えないものを完璧に見ることができる人など存在しません。

だからこそ、我々は、毎月二日間朝から晩まで(日付が変わる時間になっても)、一緒に学び、一緒に考え、見えないものを見るチカラを身に付けようと、絶えず一緒に努力させていただいているのだと思います。

「楽してガッポリ!」
「100万円からラクラク●億円!」
「デイトレで普通の主婦が億万長者!」

書店には、電車の中吊りには、そんな悲しむべき言辞が満ち満ちています。
矛盾に満ちたそれらの言葉を見るたびに、私は悲しい思いを抱きます。

それらの「成功」(と呼べるのであれば)の陰に、いったいその何倍の人が多くのものを失ってきたか、ということに。
確率論的には間違いなく発生するそれらの事象。それを、あたかも再現性があるかのように喧伝する人々の十年後の「心」はいかばかりか、ということに。
彼ら自身、十年後二十年後、一番大切な人々に、胸をはってそれらの著作を本当に見せられるのだろうか、ということに。

皆が、安易な、「目に見えるもの」に流されてしまいがちな時代。
そんな時代だからこそ、我々は、「見えないものを、見るチカラ」を磨きたいと思っています。
そして、その価値観に共鳴していただける方々との出会いを、これからも繰り返していきたいと思っているのです。

これまで、我々の活動に共鳴していただいた皆様、心からありがとうございます。
そして、まだ見ぬ皆様にお会いできる機会を、事務所メンバー一同楽しみにしています。


一週間の「パートナーエッセー」シリーズにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。明日から板倉本人が復帰いたします。

どんなご意見でもいただけると嬉しいです。
ご意見・ご感想はコチラまで

2006年3月20日 橋口寛


PS
板倉さんは私の顔を見て、「しかし、はっしーは目がちっちゃいよねえ!」とよく言います。
それを聞くたびに、
「ああ、この人もまだまだ「見えないものを見るチカラ」が足りないなあ」
と私は思っています(笑)。
なぜなら、私の目の「開口部」は小さいですが、外から見えない「目の玉」自身は、特大サイズであることに、彼は気づいてないからです。

目の玉の本質は、開口部のサイズではなく、目の玉自身のサイズですから(←そうか?)。





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