板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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パートナーエッセイ 第3回「家庭内IR」

★板倉の休暇中、当事務所のパートナーによるエッセイをお送りしております★

あなたの奥さん(ご主人)は債権者タイプ、それとも株主タイプですか?

家庭内IRといっても、債権者タイプの奥さん(ご主人)に対するIRと株主タイプの奥さん(ご主人)に対するIRとでは違うんです。

はじめまして!板倉雄一郎事務所パートナーの石野雄一と申します。10年近くまじめ(?)に勤め上げた東京三菱銀行(現:三菱東京UFJ銀行)を退職し、乳飲み子をかかえて家族で渡米しました。生活保護を受けながら、なんとかMBA取得。その後、やっと日産自動車(財務部)に就職できたと思ったら、3年弱で独立。

現在は、財務戦略コンサルタントとして、新規事業の立ち上げや資金調達に関する支援、ならびにファイナンスに関するセミナー、企業研修などを行なっています。

実は、私はよく、人からこんな風に言われます。

「奥さんは、よき理解者なんでしょうねぇ。」

実際のところ、「理解されている」というよりも、すでに「あきらめられている」ような気もします(笑)

こんな私でも、最近は、家庭内IRの大切さを痛感しています。家庭内IRとは何かについてご説明する前に、企業のIRについて、おさらいしてみましょう。

企業がIRを行うのは、なぜでしょうか?そうです。投資家に企業のことを知ってもらうためです。でも、知ってもらうと、どんないい事があるんでしょうか?実は、IRのミッションは、企業の「資本コスト(以下WACC)を下げる」ことにあります。

投資家は、わけのわからないものには投資したくありません。企業に対する「リスク認識」が高い場合は、要求するリターン(=期待収益率)は高くなります。これこそ、ファイナンスの「ハイリスク・ハイリターンの原則」です。リスクの高いものには、高いリターンを求める。これって当たり前といえば、当たり前です。

投資家の要求するリターンが高くなるということは、企業にとってみれば、WACCが高くなるということです。そこで、企業は、IRを通して、投資家に自分たちのことを知ってもらい、投資家の企業に対する「リスク認識」を下げる必要があるのです。「リスク認識」が下がれば、要求するリターンも下がります。 こうして企業にとってのWACCが下がれば、仮に投下資本利益率(ROIC)が変わらなくても、ROICとWACCの差(スプレッド)が拡大し、企業価値の増加が図れるわけです。

前置きが長くなりました。それでは、家庭内IRとはなんでしょうか?

家庭内IRとは、投資家である奥さん(ご主人)に、仕事のことや将来のビジョンなど、自分の考えていることをわかってもらうことです。家庭内IRの目的は、ずばり、奥さん(ご主人)のあなたに対する「リスク認識」を下げることによって、あなたに対して、奥さん(ご主人)が、要求するリターン(=期待収益率)を下げることにあります。

たとえば、あなたがどんなことを考えて、どんな仕事をしているのかを奥さん(ご主人)が知らなければ、ある意味、投資家である奥さん(ご主人)は不安です。「わけわからないあなたと一緒にいてあげるんだから、最低でも、これぐらいの収入(≒ROIC)は欲しい!」って思うかもしれません(笑)

一方で、家庭内IRにより、奥さん(ご主人)の要求するリターン(=期待収益率)を低く抑えることができれば、たとえ、収入(≒ROIC)が一定であっても、投資家である奥さん(ご主人)にとっての「あなたの価値」は高まります。運用サイドの増加が無理な場合は、調達サイドの低減に目を向けるわけです(パートナーの期待収益率は、あなたにとってはコストになります)。

次に、私たちが考えなくてはいけないことは、奥さん(ご主人)が、債権者タイプなのか、株主タイプなのかです。実は、投資家には債権者と株主の二種類あります。

債権者にとっての「いい企業」とは、たとえ成長しなくても、キャッシュフローが安定しているということです。これは、いくら企業が成長したところで、債権者にとってのリターン(利息)は、あらかじめ決まってしまっていることにあります。

一方で、株主にとっての「いい企業」とは、将来成長し、価値創造してくれる企業。成長してくれればくれるほど、株価上昇益や配当という形でのリターンが大きくなるわけですから当たり前です。

要するに、同じ投資家でも、債権者は「安全性」を重視し、株主は「成長性」を重視するといえます。
いまの安定したポジションを捨てて、転職、あるいは独立したあなたの年収がたとえ増えたとしても、結局家庭に入れるお金は変わらない。そう考える債権者タイプの奥さん(ご主人)は、あなたの勇気ある行動に反対するかもしれません。

この話からもわかるように企業のIRも、投資家が債権者か株主かによって、アピールすべきポイントが違ってきます。

「債権者に対するIR(=デットIR)」では、企業の「安全性」を訴え、有利子負債の返済に問題がないことをアピールする。一方で、「株主に対するIR(=イクイティIR)」では、企業の「成長性」をうったえ、将来にどれだけのリターン(株価上昇益+配当)が期待できるかをアピールする必要があるわけです。

つい先日のことです。家庭内IRの一環として、いい気分で壮大な夢を語っていた私に妻が一言。

妻:「夢のような話はいいんだけど、その前に留学の時に貸したお金ちゃんと返してね!」
私:「あれっ!?」

実は、私の妻は債権者タイプだったっていうことです。お後がよろしいようで(笑)

PS
この話でファイナンスに興味を持ったあなた。
そんな奇特なあなたは、ぜひ拙著「道具としてのファイナンス」をお読みくださいね。
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2006年3月16日 石野雄一





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